あれは、まだ私が高校生の頃でした。当時私は、心霊や魔術に興味を引かれ、様々な書籍を手に入れては読みあさっていたのです。とは言え、幽霊を見た事が無く、本当に現実にあるモノなのかどうかの判断は出来ないでいました。どこか「おとぎ話」的な感覚で捉えていた様な気がします。これはそんな時の話です。
ある本の1ページに、「降霊の方法」が載っていました。それも、コックリさんの様なスタイルではなく、独りで出来るモノでした。私は早速実践してみることに……。
方法を詳しくは書きません。準備に3日かかるとだけ記しておきます。準備が整い、半座半眼で静かに待っていました。そのまま1時間くらい経ったでしょうか、私は微かな異変を感じ取りました。人の気配を感じたのです。それも遙か遠くの。距離にすると、何百メートルという遠さです。遠いけれど、もの凄く強い存在感。初めは神経が過敏になっているせいかと思ったのですが、どんなに頭の中から振り払おうとしても、振り払えない。
そして「彼」は動き始めました。私の方へ。
家の外を通り過ぎる車の音に混じり、「彼」が近づいてくる。姿は見えないが、まっすぐこちらへ向かってくる。「この変な感覚は何なんだろう」そう思っていると、「彼」は家の前にたどりついた様子。当時私が住んでいたのは団地の2階。その下の建物入り口に彼が立っているのを、私は感じました。恐怖は勿論ありましたが、「どうなるのか見届けたい」という気持ちが強く、そのまま待っていました。すると、
シャン…
と、鈴のような音が聞こえてきました。
シャン…
一歩一歩、しっかりとした足取りで地面を踏みしめるような、そんなニュアンスが感じられます。
シャン…
その音は、階段を一つずつ、ゆっくりと昇ってきます。それは、厳しい山道を歩く、山伏の杖を思わせました。
シャン…シャン…
「気配」という第六感から「聴覚」という五感へ変わった時、私の恐怖は一気に膨れ上がりました。それは、「おとぎ話」から、「現実」へ変わった瞬間でした。
シャン…シャン……シャン……
私は後悔し始めていました。「ごめんなさい……」
シャン…
「ごめんなさい……」
シャン……
「ごめんなさい……」
私は一体、誰に謝っていたのでしょうか。外の鈴の音になのか、神様になのか、今でもよく分かりません。ふと我に返ると、鈴の音がやんでいます。あれ?と思った瞬間……
ドンドンドン!!シャンシャンシャン!!
玄関のドアを激しく叩く音。鈴の音も一緒に。
ドンドンドンドン!!!!シャンシャンシャンシャン!!!!
その夜、家には私しか居なかった。でも、出たら、自分はどうなるか分からない。私は、半座のまま、硬直していました。
ドンドンドン!!!!シャンシャンシャン!!!!
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ……」
ドンドンドン!!!!!シャンシャンシャン!!!!
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」いつの間にか、私は口に出して謝り続けていました。「もうしません、ごめんなさい、もうしません、ごめんなさいぃ、もうしません、ごめんなさいぃぃぃ……」壊れたテープレコーダーの様に、繰り返し、繰り返し……。すると
ドン!シャン!
と、一つ大きくドアを叩いた後、真空の静けさが辺りを包みました。ドアの外に気配は感じられず、ついさっきまで忘れていた車の通り過ぎる音が戻ってきました。私は急いで玄関の内側に(外へは怖くて出られませんでした)塩をまくと、布団の中に頭から潜り込みました。電灯はつけたまま。全く眠れませんでしたが、その後は何事も起きませんでした。