初めまして。私は小さい頃に北陸地方にある祖母の家で育てられていました。そこは茅葺き屋根の平屋建てで「絵に描いたような」田舎でした。
その頃はいわゆる「オカルトブーム」というやつで、私の周囲でも、こっくりさんや狐憑きの話などが流行っていました。中でも、私がいた地域では「かしわ」という話が有名で、この話の最後は「○○しないと三日以内にかしわが来て、殺される」というタイプのものだったので、子供たちは皆怖がったものでした。
かしわという話がどんな話だったか、もう忘れてしまいましたが、ある日、仲が良かった近所の男の子に「かしわ」の話を聞かされたのです。私はちっとも信じなくて、その「○○しないと」という決まり事も実行しませんでした。
そんな話を聞いたことも忘れていたある日のこと。祖母の家の庭で一人でおままごとをしていると、どこからか私を呼ぶ声が聞こえました。はじめは祖母が呼んでいるのかと思いましたが、その日祖母は麓のスーパーまで買い物に行っており、家には誰もいないはずでした。不思議に思った私は、どこからか聞こえる声の主を探して、いつしか家の裏山に入り込んでいました。
私を呼ぶ声は、妙に近くで聞こえたかと思うと、聞き取るのも困難なほど遠くで聞こえたり、今考えれば「生きている人間」が移動しているとは、絶対に考えられないものでした。でもまだ幼かった私は、不思議な声に対する好奇心だけで、慣れない山の中を走りました。
どれくらいの間走っていたのか分かりませんが、いつしか声は聞こえなくなっていて、私は周囲をキョロキョロと見回してみました。すると、同じような木が立ち並ぶ森の中で、一本だけ妙に目立つ木が目に入りました。何か色とりどりの物体が木に張り付いているようでした。それが何かの飾り付けに見え、私は駆け寄りました。するとそこには、和紙で作られた小さな紙の人形がたくさん貼り付けてあったのです。人形はほとんどが黒髪のおかっぱで、赤い着物や緑の着物などを着ていました。その小さな体の中心に五寸釘が打ち付けられていました。
私は急に寒気がして、子供心に「見てはいけないものを見てしまった」と思い、泣きながら家へ向かって走り出しました。けれど、森へ入ってからは声の主を探しながらがむしゃらに走っていたため、どっちが家なのか、どこが森の出口なのか分からず、もう完全に迷ってしまっていました。無事家に帰れたのは、帰宅した祖母が出しっぱなしのおままごと用具を見て、探しに来てくれたおかげでした。わんわんと泣きじゃくる私に驚いた祖母は、私が泣きやむまで背中をさすってくれ、次第に落ち着いた私から事の顛末を聞くと、こんな話をしてくれました。
祖母も実際に見たことはないけれど、和紙の人形を木に打ち付ける行為は、わら人形を使った呪いの儀式のようなものだったそうです。昔はお金も無く、食べることにも困る人たちが大勢いて、生まれてきた子供も満足に育てられないことが多かったのです。そんな時にその儀式をすると、子供は病気などで間も無く死んでしまうのだとか。自分の子供に死んでほしいと願う人たちが、あの森に入って人形を打ち付けたのでしょうか。もしそれが本当なら、私には幽霊なんかよりも、我が子に死んでくれと願う親の心が恐ろしいと思うのです。
でも祖母の話の中で、一つだけ「あ!」と思うことがありました。それは、この儀式はもともと「かしわの木」で行ったと言うのです。それが子供たちの間で流行っていた「かしわ」の怪談と関係あるのかは分かりませんが、かしわの怪談の「白い紙を人型に切り抜いて燃やさないと、三日以内にかしわが来て殺される」というオチを考えると、もしかしたら何か関係があるのかもしれません。